Faylay~しあわせの魔法
しばらくの沈黙のうち、イライザが口を開いた。

「この時期に勇者の血をひくお前がこの国を訪れたのも、何かの導きによるものなのかもしれないな」

「……そうなのかな」

フェイレイは未だ、自分が勇者の末裔だなどと信じられない。

確かに自分の中には何か底知れない、大きな力が眠っているような気はするけれど。

ただ漠然と感じているだけで、今のところ、自分でも良く分からない力だ。

もう一度、勇者の像と向き合う。

胸の内にある疑問を、問いかけるように見上げる。

「……父さんも母さんも、何も言ってなかったね」

フェイレイの隣に立ったリディルは、静かに訊ねた。

「うん、何も聞いてない……」

勇者の像を見上げたまま、頷く。

意図して言わなかったのだろうか。

フェイレイが見ていた限りでは、ランスもアリアも、この事実を知らなかったのではないかと思えるのだが……。

「俺が勇者になりたいんだって言ったときも、そんな話、出なかったしな」

「……そうだね」

「本当に勇者の子孫なのかなー。グリフィノーなんて名前、その辺にありそうじゃない?」

「どうかな。分からない」

「そもそも、俺なんかが勇者の子孫だなんて……」

『勇者』になると豪語している普段の姿からは想像出来ないくらいの弱気な発言だ。それだけ降って湧いた事実に戸惑っているのだろう。

リディルは勇者の像からフェイレイへ視線をやった。

「でも……真実がどうであれ、フェイは、勇者みたいな人だと思うよ」

「え……そう、かな」

リディルに目をやると、彼女は微かに笑みを浮かべていた。

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