Faylay~しあわせの魔法
「……どうしたの?」

フェイレイの様子は、明らかにいつもと違う。

「イライザ姫に、話はあとにしてって言ってくるから。横になって休んでて」

そう言ってフェイレイの肩を押し、横にならせようとする細い手首をとっさに掴み、翡翠の瞳を見つめた。

「……フェイ?」

戸惑うリディルの声を聞きながら、フェイレイは思い出していた。

最近、ティターニアの名前を聞いたときのことを。



──寝言で女の名前を……


キャプテン・ブラッディの海賊船の中で、ローズマリーが激しい怒りを噴出させながら言っていた、あの言葉。

惑星王はティターニアという名を、呟いていた。

つまり彼は……魔王は。

(……知っている!)

自分の妹が、リディアーナ皇女殿下が、ティターニアであると。


ソクリ、と背筋が粟立った。

知っていて狙っているのだ。

クーデターの首謀者としてではない。

精霊の女王を召還出来る彼女を、葬ろうとしているわけでもない。

万物の力を操れる存在を手中にせんとして、欲している──。


フェイレイはリディルを抱きしめた。

処刑されるという事実でさえ恐ろしかったのに、更に恐ろしいことを惑星王は──魔王は、考えているのだ。

リディルの力を、世界殲滅の道具にしようとしている──。
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