Faylay~しあわせの魔法
目の前まで来ても、フェイレイは何も声をかけることが出来なかった。

周りで侍女たちが笑顔で見守る中、2人は視線を合わせることなく、向かい合ったまましばらく無言で立ち尽くした。

侍女たちは胸の前で手を組み、こっそりとエールを送る。

頑張れ、頑張れ。

その聞こえない声に後押しされるように、リディルがそっと顔を上げた。

いつも跳ねている赤い髪はきちんと梳かされ、かっちりした騎士団の正装を着た彼に、とくりと心臓が揺れる。

「……似合ってるよ」

なるべく平静を装いながらも、頬が赤く染まる。

「ん、ありがと」

フェイレイは表情を崩すことなく、真顔で返事をする。

かちりと視線が合わさったまま、また無言になる2人。

だんだんリディルは不安になってきた。

いつもの彼だったらきっと、ローズマリーの言っていた通り、「かわいい」と言ってくれると思っていたのに。

「……変、かな?」

こんなふわふわのドレスを着るのも、化粧をするのも初めてである。

ヴァンガードは綺麗だと言ってくれたけれど、彼は気遣いの出来る子だ。やっぱり、変なのだろうか……。

不安顔になるリディルに、侍女たちはブンブンと首を振り、フェイレイに目で訴えかける。

それでようやくフェイレイは我に返り、小さく首を振った。

「いや、変じゃないよ。か、かわ、いい、よ」

想像以上の愛らしさに、フェイレイは頭が真っ白になっていた。舌がうまく回らない。

「……そう、かな」

少し頬を染め、小首を傾げるリディルに、フェイレイは眩暈を起こしそうだった。

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