Faylay~しあわせの魔法
「おめでとうございます」

フェイレイの抱擁から離れたリディルに、そっと声をかける。

「良かったですね」

にこりと微笑んでみせると、リディルは頬を染めてはにかんだ。

「……ありがとう、ヴァン」

その笑みが一段と綺麗に見えて、ヴァンガードは少しだけ胸を痛めた。

化粧のせいでも、美しいドレスのせいでもなく。本当にしあわせだと感じている人の微笑みは、眩しいほどに輝いていた。

仕方ないのだ。

ヴァンガードが好きになったのは、『フェイレイに向かって微笑む』彼女なのだから。

「フェイレイさん。いつまでもだらしない顔していないでくださいね。晩餐会でも気を抜かずにしっかり警護するんですよ」

彼にも祝いの言葉を贈りたいのだが、どうしても口から出てくるのはそんなお小言になってしまう。

だがそれも仕方ないのだ。

しあわせなフェイレイには、小さな嫉妬くらい、広い心で受け止めて欲しいものである。

「うん、そうだな」

フェイレイは頷いてきゅっと顔を引き締める。だがすぐに口元が緩んでしまい、ヴァンガードに睨まれた。




その夜の晩餐会は、厳かな着座形式から、急遽和やかなムード漂う立食形式に変更された。

この国の英雄『勇者』の末裔であるフェイレイだけでも注目されていたのに、更に祝い事が重なったので、大広間に登場した途端、人に囲まれてしまった。

イライザ姫の姉である、第一から第四王女への挨拶もそこそこに、次々に祝詞を述べられ、魔族との戦闘の話をせがまれ、勇者の在り方を口説かれ……とにかく逃げ場がなかった。

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