Faylay~しあわせの魔法
愛想笑いの出来るフェイレイはともかく、人の苦手なリディルは疲れてしまう。

フェイレイはそんな彼女を気遣い、なんとか人々を振り切って、リディルと一緒にバルコニーへ飛び出した。

扉には騎士団が見張りとして立っているので、ここしか逃げ場がなかったのだ。

「ちょっと寒いかな?」

アライエルの夜はただでさえ冷えるのに、今日は雨。

上着を着ているフェイレイと違い、リディルのむき出しの肩は寒そうに見える。

「平気だよ。中の熱気が凄かったから……」

火照った顔を冷やすには丁度いいと、リディルは手摺りまで歩いていった。

明かりの漏れる窓から離れるごとに闇が濃くなり、雨音だけが静かに鼓膜を震わす。

しばらく闇に沈む城の屋根を見ながら立っていたのだが、緩やかに肌を撫でていく空気は冷たく、やはり少し冷えてしまった。

両手で身体を抱きしめるようにすると、フェイレイが後ろから包み込んでくれた。そのぬくもりに笑みを零し、リディルはそっとその腕に触れた。

「俺さ、ちょっと失敗したー」

「なにが?」

「だって、指輪がないんだ! プロポーズするときには、絶対リディルの目の色の石が嵌め込まれた銀の指輪を贈る! って決めてたのに」

「……そんなのいらないよ」

リディルは微笑むと、左のグローブを外して手を掲げた。

小指に嵌められているシルバーリングが、微かに光を放つ。

「これ、あるもの」

「それは意味が違うー! 後でちゃんとしたの、贈るから」

「いいのに」

リディルはそう言うのだが、フェイレイは納得しない。リディルの掲げている左手を取り、その小指と自分の小指とを絡めた。

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