Faylay~しあわせの魔法
一条の光さえ差し込まない闇の中に、荒い息遣いが響く。
ズルズルと這うように近づいてくる影は、床まで流れる黒い衣を掴むと、玉座に座るカイン──魔王──の膝の上へと這い上がってきた。
「猊、下……」
呻き声とともに漏れるのは、ザズの街でフェイレイたちと戦った女の声だ。
その身をズタズタに切り裂かれ、皮膚を焼かれ、無残な姿になりながらもこうして主人のもとへと帰ってきたのだ。
「見つけました。猊下のお探しの娘、リディアーナ皇女殿下……」
震える声で、揺れる瞳で縋りつきながら、紫暗の瞳を見上げる。
「アライエルです。アライエルの王都から、そう離れていない街におります。それから、あの男……ただの人間ではありません。あれは恐らく、『勇者』の血を持つ者!」
息を切らしながら必死の形相でそう報告する女を見て、魔王はふっと鼻で笑い、侮蔑の目を向けた。
「それで?」
「え……」
「その赤髪の男、始末したのか?」
「い、いえ……」
見下ろされる瞳からも、かけられる声からも身を凍らせるような冷たいものを感じ、女は魔王の膝から退いた。
「ですが猊下、今一度チャンスを与えてくだされば、必ず!」
「お前には無理だ」
魔王は冷たい笑みを女に向ける。
「無理だ」
女の体は一瞬の後に業火に包まれた。
ズルズルと這うように近づいてくる影は、床まで流れる黒い衣を掴むと、玉座に座るカイン──魔王──の膝の上へと這い上がってきた。
「猊、下……」
呻き声とともに漏れるのは、ザズの街でフェイレイたちと戦った女の声だ。
その身をズタズタに切り裂かれ、皮膚を焼かれ、無残な姿になりながらもこうして主人のもとへと帰ってきたのだ。
「見つけました。猊下のお探しの娘、リディアーナ皇女殿下……」
震える声で、揺れる瞳で縋りつきながら、紫暗の瞳を見上げる。
「アライエルです。アライエルの王都から、そう離れていない街におります。それから、あの男……ただの人間ではありません。あれは恐らく、『勇者』の血を持つ者!」
息を切らしながら必死の形相でそう報告する女を見て、魔王はふっと鼻で笑い、侮蔑の目を向けた。
「それで?」
「え……」
「その赤髪の男、始末したのか?」
「い、いえ……」
見下ろされる瞳からも、かけられる声からも身を凍らせるような冷たいものを感じ、女は魔王の膝から退いた。
「ですが猊下、今一度チャンスを与えてくだされば、必ず!」
「お前には無理だ」
魔王は冷たい笑みを女に向ける。
「無理だ」
女の体は一瞬の後に業火に包まれた。