Faylay~しあわせの魔法
闇の中で燃え上がる炎は、断末魔の叫びごと女を焼き尽くす。それを冷ややかに見つめる魔王の白い顔は、黄金に染め上げられた。

「アレクセイ」

冷笑を浮かべたまま、魔王は後ろに控えていたアレクセイを呼ぶ。

「はい」

「逃がすなよ」

「……承知いたしました」

アレクセイは燃え盛る炎の横を無表情のまま通り過ぎ、階段を下りて真っ直ぐ扉へと向かう。

扉の前で一度振り返り、カインに向かって一礼する。

顔を上げるとすっかり炎は消え去り、部屋の中はまた静かな闇に包まれていた。その向こうにいるカインを一瞥し、部屋を出る。


「猊下……魔王か」

あの“カイン”が何者であるのか、ようやくアレクセイも知り得ることが出来た。

人とは違う、恐ろしい異能力の持ち主。それを数年もの間押さえつけてきたのかと思うと、改めて主に敬意を表したい気持ちだった。

カインは強い。

凄まじい精神力だ。

だがそれも、もうすぐ尽きる。傍にいながらカインの息遣いがほとんど感じられなくなった。

アレクセイはフェイレイたちが皇都かセルティアまで赴くのを待つつもりでいたのだが、どうやらそんな悠長なことは言っていられないらしい。

炎の中に消え去った女の言葉を思い出しながら、薄暗い廊下を歩く。

あの少年は『勇者』の血を持っている──。

なるほど、と思った。

自分を越えられる唯一の存在は、見込んだとおりの凄まじい力を秘めているようだ。

その力が欲しい。なんとしてでも。

「誰を犠牲にしても、お護りいたします」

そう固く決意して、戦艦へと乗り込む……。



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