Faylay~しあわせの魔法
ローズマリーは怒りの表情を少し和らげ、リディルを見る。

「無理はなさらないで。……と申しましても、意味のないことですわね」

軽く溜息をついて、リディルのお腹、臍の辺りに掌を当て、そこから“気”を送り込んだ。

「っ!?」

リディルは軽くよろけたが、“気”を送り込まれた臍の部分からじんわりと身体が熱くなっていくのを感じた。

それで随分身体が楽になったことに気づき、驚きの目をローズマリーへ向けた。

「疲労回復のツボです。でもただの一時凌ぎですからね。ヴァンくん、もうリディルに精霊を召喚させないようにしてください。無理をしすぎると後で反動が来ます」

「わ、分かりました」

ヴァンガードが頷くと、ローズマリーは足早に去っていった。

その足音が聞こえなくなる前に、リディルは更に魔力を精霊の女王たちに送り込む。

ウィスカの女王は砲筒を包み込み、スティルの女王は更にそれを破壊する。ジュエヴェの女王は飛行艇のフロントガラスに雨粒を叩き付けて視界を悪くさせた。

「リディルさんっ!」

言われたそばから、とヴァンガードが声を荒げる。

「……後で倒れてもいい。絶対、この街は焼かせない」

何も出来ずに、戦艦の中から燃えていく街並みを見つめることしか出来なかったあのときとは違う。

今の自分には、誰かを護れるだけの力がある。

セルティアギルドの街並みが黒煙を上げていたあの日のことを思い返し、もう二度とあんな光景は見たくないと、その想いを力に変えた。

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