Faylay~しあわせの魔法
「たあああっ!」

捨て身とも言える突っ込みをするフェイレイを軽くいなし、素早く剣を振るう。

それをフェイレイは右の剣で受け止め、更に左の剣をアレクセイの胴へ叩き込んだ。

しかし。

右の剣は強く跳ね上げられ、左の剣も胴の手前で止められてしまった。

フェイレイはアレクセイを睨み上げると、素早く右足を蹴り上げた。

軽く目を見開いたアレクセイは咄嗟に身を退いたが、鳩尾に深く蹴りが入り、軍靴の底を雨に濡れる甲板に滑らせながら数メートル飛ばされた。

フェイレイは更に追撃をかける。だがそれは難なくかわされ、距離を取られた。

「……よくも、卑怯な手を使う」

アレクセイは言いながら微笑を湛えた。貶しているわけではなかった。

フェイレイは身を低く構え、アレクセイを睨む。

「俺はあんたと決闘をしているわけでも、遊んでいるわけでもない。……命がかかってるんだ。だったらどんな手を使ってでも、勝つ!」

降りしきる雨を突っ切って、走る。

戦争で敗北するということは、自分の命だけでなく、他の者たちの命まで奪われるということなのだ。

剣技がどうのとか、騎士道がどうのとか、言っていられない場なのである。

だからどんなに卑怯な手を使っても、どんなに恰好悪くても、何がなんでも勝つ。

「成る程」

多くの命を背負って向かってくるフェイレイを、アレクセイは迎え撃つ。

「だがそれだけでは勝てない」

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