Faylay~しあわせの魔法
「フェイ……?」

寝返りを打ちながら呟くと、闇の中から低い声が響いた。

「目覚めたか」

その声に、また心臓が冷たく揺れ動く。

ガバ、と飛び起きて、声の方へ目を向ける。

途端に激しい眩暈に襲われ、シーツの上に置いた手から力が抜けて、ベッドに倒れこんだ。

「急に起き上がるな。一週間も眠っていたんだぞ」

冷く響く低い声は、抑揚なく語りかけてくる。

「い、っしゅう、かん……」

あれから一週間?

アライエルに星府軍が攻め込んできたあの日から、一週間も経ったというのか?

リディルはガクガクと震える腕になんとか力を込め、ゆっくりと身を起こした。

まだ続く眩暈と、ガンガンと殴られているような酷い頭痛に顔を顰め、ゆっくりと辺りを見回す。

ジジ、と音を立てて燃える蝋燭の炎がいくつも周りを囲んでいて、部屋の中をほんのりと赤く照らしていた。

その中心に。

リディルのいるベッドから少し離れたソファに、長い足を組み、肘掛に肘をつき、顎に手をやった姿勢で誰かが座っていた。

赤い光に照らされる髪は、辛うじて紺色だと分かる。

濃い陰影を浮かび上がらせる白い肌に、整った顔立ち。この暗がりの中では黒にも見える紫暗の瞳は、静かにリディルを見つめていた。

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