Faylay~しあわせの魔法
「惑星、王……?」

彼の顔は知らない。見たことはない。けれども、何度か聞いたことのある声と、醸し出される雰囲気は惑星王のものだった。

いや、魔王のものか。

目の前にいる男の顔は鋭い光を放ち、他を屈服させようとする冷酷な色が浮かんでいる。

カインはきっと、もう少し優しい顔つきのはずだ。ローズマリーに穏やかな微笑みを浮かべさせる、慈愛に満ち溢れているはずの兄は。


「兄の顔も忘れたか」

魔王はそう言うと組んでいた足を外し、スッと立ち上がった。

ゆっくりと近づいてくる魔王に、リディルはベッドの上をよろけながら後退した。

だがすぐに壁に背がぶつかり、浅く呼吸を繰り返しながら、逃げ道を探して辺りに視線を走らせる。

ほの明るい火に照らされたドアを見つけると、ベッドを降りて壁伝いに走った。

ガチャガチャとノブを回しても、鍵がかかっているのかビクともしない。すぐにそこから離れ、また走り出す。

背後に魔王の気配を感じながら、別のドアを見つけ出して押したり引いたりしてみるものの、やはり開かない。

他に出口は──と振り返ると、すぐ後ろに魔王が迫っていた。

彼に掴まってはいけない。

掴まったらもう、“戻れなくなる”のだ。

そんな脅迫概念に襲われながらドアに背を擦り付けるようにし、恐れ戦いて魔王を見ると、ふっと哀しげにその顔が歪められた。

どくり、と心臓が揺れ動く。

まただ。

この人に近づかれると、リディルの心臓は痛いほど揺れ動く。

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