Faylay~しあわせの魔法
「……いや」

リディルは首を横に振った。

「何故?」

魔王は微笑みながらリディルの頬を両手で包み込んだ。

「何故怖がる。思い出すのが怖いか? ……真実を知れば、帰れなくなるから、な……」

リディルは震えながら魔王を見上げた。

そうだ。

帰れなくなるのだ。

「……やめて」

涙目になりながら懇願するも、聞き入れてはもらえない。

「来い、ティターニア」

その声に、心の奥底に沈み込んでいた記憶の箱の鍵が、無理やりこじ開けられた。

「やめてぇええっ!」


ごぽり、ごぽりと湧き上がってくる記憶の泡は、懐かしい水車小屋の重く回る音を連れてくる。

長閑な田園地帯に流れる、浅くて狭い小川は、底に敷き詰められた石の模様まではっきりと見える透明な流れ。

その流れが回す、小さな水車。

収穫した穀物を脱穀するために回る水車のその横で、リディルに良くにた女性が大きな籠を持って微笑んでいる。


『おかあさま、おかあさま』


無邪気に母を呼ぶ、幼い頃の自分の声がする。
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