Faylay~しあわせの魔法
あのとき、自分は何を望んだのか。

温かい手で頭を撫で、ギュッと抱きしめてくれる優しい母を、目の前で奪われた少女は。


『消えて、なくなれ』


リディルは息を呑んだ。


おかあさまを傷つける人は、みんな、消えてなくなれ──


それが彼女が望んだことだった。

だから辺り一面を包み込んだ白い光が、建物ごと兵士たちを消し去った。

そして目覚めさせる。

地中深いところに封印されていたはずの、千年前に世界を滅ぼそうとしていた恐ろしい存在を。


ガタガタと身体が震える。

それは魔王への畏怖からではなかった。

自分の犯した“罪”の重さと、人の命の重さに潰されてしまいそうだった。

いかに幼かったとはいえ、いかにそう思っても仕方のない状況だったとはいえ、決して望んではいけないことを、願ってしまった。

願うだけなら良かった。そのくらいなら、誰にでもある過ちなのだから。

だが、不幸だったのは。

その“願い”を形に出来る力を、リディルが持っていたということと。世界を破滅させることの出来る存在が、リディルを──彼女の中にある魂を、“愛して”いたということだ。

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