Faylay~しあわせの魔法
「お前のせいではない」

魔王はリディルの頬を伝っていく涙を、そっと指先で拭ってやった。

「お前を苦しめる愚かな人間が、自ら招いた事態だ」

「ちが……違う」

「私は赦さない。今も昔も、お前から“しあわせ”を奪った人間どもを。私からお前を奪った人間を」

眼裏にカッと閃光が散る。

大切な人を傷つけるものを全部消し去ってしまわなければと、無意識に発動してしまった莫大な力。

激しい慟哭が生み出した白い光、その向こうにはリディルの瞳の色と同じ、翡翠色の長い髪をした女性が穏やかに佇んでいた。

(ティターニア)

直感的にその女性がティターニアだと分かった。たおやかな外見とは裏腹に、精霊王に匹敵する莫大な力を秘めた、精霊の女皇。

彼女の周りの世界は輝いていた。精霊だけでなく、人や魔族からも愛されたティターニア。

けれど……。

たくさんの人の怒声と、剣や槍、大砲といった武器、破壊されていく美しい街並、血溜まりの上に重なる屍が、あちこちに見え始める。

すべての始まりである千年前の世界大戦、その最中にいたティターニアと。

金色の髪と青い目を持つ青年と。

長い黒髪に黒いローブを羽織った青年と。

彼らの苦悩に満ちた顔が脳裏に浮かんだ瞬間、リディルはその重みに押しつぶされるように崩れ落ちた。

それを魔王が支え、一緒に床の上に膝をついて、震えるリディルを優しく抱きしめた。

「私は滅ぼす。世界も……『勇者』も」

リディルは嗚咽しながら魔王にしがみ付いた。



(フェイ──)


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