Faylay~しあわせの魔法
普段の海ならば、この海賊船のスピードなら3~5日あれば皇都まで行けるはずだった。

だが中央大陸までの道のりは魔族たちに阻まれ、二進も三進もならなくなっていた。

連合軍空軍の戦艦も、雲の上で襲い掛かるリンドブルムに苦戦を強いられた。

長い長い空と海での戦いは、この後一週間も続いた。





「世界連合軍なるものが、この皇都へ近づいています」

そう報告するのは、星府軍元帥アレクセイ。

カーテンの開けられた窓の外は雨で薄暗く、明かりの灯らないこの部屋もやはり薄暗かった。

それでも今まで魔王のいた玉座の間の、一条の光もささない闇の中よりはよほど明るい。

ここは皇女殿下のために用意された部屋だ。

リディルを連れ帰った魔王は、あれからずっとこの部屋にいた。

今アレクセイの目の前にいる魔王は、今まで見たこともない穏やかな顔で、黒いドレスを着たリディルの膝の上に頭を乗せて目を閉じていた。

「ああ、好都合だな。この大陸に上陸した者から順に、我が一族の餌にしてやろう」

楽しそうに口角を上げる魔王の、その額にリディルが手を乗せる。

「駄目だよ。魔族は本来、人を襲う種族ではないもの。貴方の言うこと聞かされて、やらなくてもいいことやらされるのはかわいそうだよ」

「つれないことを言う」

魔王はフッと笑みを零した。

「……もう誰にも、傷ついて欲しくなんかないの。……貴方にも」

静かに見つめてくる翡翠の瞳に、魔王は吐息をつく。

「もう遅い。我らは人を襲う種族に成り果てたのだ。千年前の、あの大戦からな」

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