Faylay~しあわせの魔法
真っ白な空間に少女がひとり、佇んでいた。

ハニーブラウンの髪を左右ふたつにおだんごに結った、翡翠の瞳の少女は不安げに辺りを見回し、歩いている。

「リディル!」

フェイレイが叫ぶと、リディルは彼を振り返った。

その彼女の背後から、黒い手がいくつもいくつも現れ、リディルを捕まえようとしている。

「リディル、逃げろ!」

叫びながら、フェイレイはリディルを助けに走る。

だがどうしたことか、足が少しも前に進まない。無理に前へ進もうとすると、身体が前のめりになって倒れてしまうのだ。

「リディル!」

手を伸ばして名を呼ぶと、リディルもフェイレイに向かって手を伸ばした。


フェイ。

フェイ、たすけて──と。



「リディル!」

叫びながら顔を上げると、そこは真っ白な空間ではなかった。

ガチャン、と金属音がしてハッとする。

まだ一口しか手をつけていないスープの中に、スプーンが裏返しに落ちていた。

「あ……寝てた?」

大きく息をつきながら前髪をかき上げると、悪夢を見たせいか、額が汗に濡れていた。

そのまままた大きく息をつき、ハッと顔を上げると、食堂にいた海賊たちが心配そうにこちらに顔を向けていた。

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