Faylay~しあわせの魔法
「新船長、大丈夫か? だいぶうなされてたぜ?」

「やっぱり部屋で休んでなって。ここんとこロクに寝てねぇんだろ?」

「あ、いや、平気だよ」

心配してくれる海賊たちに微笑みかけ、スープの中に落ちたスプーンを拾う。


食事をしながら眠ってしまうほど、身体は疲れていた。

嵐に揺れる船の上で、魔族との戦闘は昼夜を問わず続けられている。

海賊たちはうまくローテーションを組んで立ち回っているようだったが、フェイレイは違った。

食事をする僅かな時間を除いて、ほとんど甲板の上に立っていた。

眠れば今のように、心の奥深くにある不安が夢となって現れてくるので、この一週間、フェイレイはほとんど眠っていなかった。

リディルが攫われて早二週間。

嵐と魔族に邪魔されて、中央大陸に近づけば近づくほど船足は鈍っていく。それがフェイレイの焦りを助長させていた。

魔王はティターニアの力を使って、世界を滅ぼそうとしている。そう認識しているフェイレイにとって、目覚めてからの一週間は長かった。

すぐ目の前に陸地は見えているのに、すぐ近くにリディルがいるのに。

そうは思っても、騒いでも慌てても仕方ないのだ。

まずは出来ることからやっていかなければならない。今やるべきことは、この荒波を乗り越えて上陸すること。リディルのことは、それからだ。

スープの入った白い皿を持ち上げると、行儀悪くそれに口をつけて一気に飲み干す。

「ごちそうさま!」

立ち上がると、椅子の横に置いていた剣を持って食堂を出て行った。

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