Faylay~しあわせの魔法
左の小指に嵌められたシルバーリングをなぞりながら、リディルはぼんやりと暗い窓の外を眺めていた。
ガタガタと時折激しく揺れる窓ガラスに眉を顰め、そっと振り返る。
部屋の隅に置かれた大きなベッドには、魔王が横になって眠っている。
今も常にカインとせめぎあっている精神は、傍から見える以上に疲れているらしい。リディルがここへ来てからというもの、彼は眠っていることの方が多かった。
しかしアレクセイの話では、今まで眠る彼を見たことはないと言う。
時々カインと反発しあって倒れることはあっても、無防備な姿を晒すことはなかったそうだ。
リディルが来て、やっと彼に安息の時が訪れようとしていた。
だが、まだ本当ではない。
彼が真に安らぐ時は、世界が崩壊したとき、なのだろうか……。
リディルはベッドに近づいていくとそっと端に座り、安らかな魔王の寝顔を覗き込んだ。
仰向けに寝転がり、紫暗の瞳を瞼の奥に隠してしまったその顔は、あまりにも無防備だ。
「私が今、襲い掛かったら……どうするの?」
今この手にかけてしまえば、世界は救われるのだろうか?
チラリとそんな想いが過ぎり、兄の身体でもあるその首に指先を触れかけ、引き戻す。
しばらくそのまま宙に指を彷徨わせた後、頬にかかる藍色の髪をそっとはらった。するとその手を掴まれた。
「そんなことはしないさ。お前は私を愛している」
魔王は目を閉じたまま微笑むと、ぐい、とリディルの手を引っ張って隣に引き倒した。そして腰に腕を巻きつけ、身体を引き寄せる。
「……私はティターニアじゃない」
少しだけ身体を強張らせながらリディルが否定すると、魔王は愉快そうに笑った。
「そうか」
ただそれだけを言い、リディルを抱きしめる。
ガタガタと時折激しく揺れる窓ガラスに眉を顰め、そっと振り返る。
部屋の隅に置かれた大きなベッドには、魔王が横になって眠っている。
今も常にカインとせめぎあっている精神は、傍から見える以上に疲れているらしい。リディルがここへ来てからというもの、彼は眠っていることの方が多かった。
しかしアレクセイの話では、今まで眠る彼を見たことはないと言う。
時々カインと反発しあって倒れることはあっても、無防備な姿を晒すことはなかったそうだ。
リディルが来て、やっと彼に安息の時が訪れようとしていた。
だが、まだ本当ではない。
彼が真に安らぐ時は、世界が崩壊したとき、なのだろうか……。
リディルはベッドに近づいていくとそっと端に座り、安らかな魔王の寝顔を覗き込んだ。
仰向けに寝転がり、紫暗の瞳を瞼の奥に隠してしまったその顔は、あまりにも無防備だ。
「私が今、襲い掛かったら……どうするの?」
今この手にかけてしまえば、世界は救われるのだろうか?
チラリとそんな想いが過ぎり、兄の身体でもあるその首に指先を触れかけ、引き戻す。
しばらくそのまま宙に指を彷徨わせた後、頬にかかる藍色の髪をそっとはらった。するとその手を掴まれた。
「そんなことはしないさ。お前は私を愛している」
魔王は目を閉じたまま微笑むと、ぐい、とリディルの手を引っ張って隣に引き倒した。そして腰に腕を巻きつけ、身体を引き寄せる。
「……私はティターニアじゃない」
少しだけ身体を強張らせながらリディルが否定すると、魔王は愉快そうに笑った。
「そうか」
ただそれだけを言い、リディルを抱きしめる。