Faylay~しあわせの魔法
「一緒に眠れ。お前も疲れているんだろう……」

「……貴方ほどじゃない」

「いいから眠れ。私はお前に倒れて欲しくないんだ。お前の“しあわせ”が、我が望みなのだから……」

この一週間、ほとんど眠れていないリディルの状態を、魔王は知っているのだ。

そんな優しさを覗かせる彼に、リディルは喉の奥をジリジリと傷める。

「アルトゥルス」

“彼”の名を呼び、目を閉じる。

「私の“しあわせ”は、みんなが“しあわせ”になることだよ……。誰も傷つかず、平和な世界で生きて欲しい。それだけ、なんだよ……」

「その願いを壊したのは誰だ」

優しくリディルの頭を撫でながら、魔王は冷たく言い放つ。

「お前の美しい世界を奪い、笑顔を奪い、ささやかな願いまで奪ったのは、誰なんだ」

「誰のせいでもないんだよ、アルトゥルス。私は……ティターニアは、誰も恨んでなんかいないよ」

「……お前のその優しさが、私からお前を奪い去ったんだ」

魔王は頭を撫でるのを止め、リディルの頭を胸の中へ埋めさせた。

「私がずっと貴方の傍にいる。……それでは、駄目なの?」

「二度もお前から“しあわせ”を奪った人間など、絶対に赦すものか。人も精霊も、皆、滅べばいい……」

「……」

再び眠りに落ちる魔王の腕の中で、リディルは唇を噛む。

何を言っても彼にリディルの、ティターニアの心を解ってもらうことは出来ないのか。

それほど、魔王を傷つけてしまっているのか。

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