Faylay~しあわせの魔法
「お兄様!」

飛び起きて『カイン』の首にしがみつくリディル。

「お兄様、お兄様、ごめんなさい、全部私のせいです。お兄様を苦しめているのも、世界がこんな風になってしまったのも、全部、私のせいなんです……!」

何度も謝りながら、小さく肩を震わせて嗚咽する妹を、カインは優しく抱きとめる。

「リディアーナ、私こそ謝らなければならない。私が護れなかったせいで、リディアーナにも、シャンテル様にも辛い想いをさせてしまった。……すまない」

リディルは小さく首を振る。

カインはリディルを離し、哀しみに揺れる翡翠の瞳を感慨深く眺め、微笑んだ。

「大きくなったね、リディアーナ」

幼い頃にリディルを膝の上に乗せてくれたときと同じ微笑みを浮かべるカインに、リディルの目からはポロポロと涙が零れた。

10年。

その歳月を飛び越えて、ようやく廻り逢えた兄と妹。

溢れる想いも、言葉も、山のようにあるけれど、残念ながら2人に残された時間はごく僅かだった。

カインは、小刻みに震えながら声も出さず、ただ泣き続ける妹をまた抱きしめた。

「リディアーナ、良く聞きなさい。私が君に逢えるのは、これが最後だ」

「──お兄様」

はっとして顔を上げるリディルに、カインは微笑みながら小さく頷いた。

「リディアーナのおかげで、魔王の心が穏やかになっている。そのおかげでこうして私が表に出てくることが出来た。だが、それもこの一度限りだ。私は力を使い果たしてしまった。だからもうすぐ消えてしまう。そうなる前に、魔王を倒さなくてはならない。私が少しの間、魔王を押さえ込んでおくから……その間に、君が魔王を封印するんだ」

「そんなことをしたら、お兄様まで!」

「もう私に精霊を召喚することは出来ない。だから、君がやるんだ。何としてでもこの惑星の民を護る。それが皇家に生まれた者の務めだ」

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