Faylay~しあわせの魔法
「出来ません……!」

リディルは激しく首を横に振った。

「お兄様、最後まで諦めないで。私、ローズさんに……ローズマリー様にお会いしました!」

カインを繋ぎとめるものがあるのだとしたら、それはローズマリーだとリディルは思った。

案の定、カインの瞳には一瞬だけ強い光が灯る。それを見て、リディルは更に言い募った。

「私が必ず、お兄様をローズマリー様のところへ連れて行きます! だから、まだ諦めないでください!」

ずっと長い間頑張ってきた者に、まだ頑張れというのは酷なのかもしれない。

もう休ませてあげた方が、カインは楽になれるのかもしれない。

けれども、まだ諦めて欲しくはなかった。

「ローズマリー様も、お兄様のことを諦めてなんかいません。だからお兄様……リディアーナの最後のお願いです。……消えないで……!」

必死の想いで紡がれる言葉に、カインは哀しげに微笑みながらリディルを抱きしめただけで、否定も肯定もしなかった。

その願いを聞き入れてやりたいとは思うけれど。

もう、本当に時間がなかった。



いつの間にか、部屋の中は闇に包まれている。

雨に濡れる皇都に、夜の帳が下りてきていた。



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