Faylay~しあわせの魔法
いつの間にか、また眠っていたらしい。

リディルが人の話し声で目を覚ますと、蝋燭の明かりに照らされた魔王とアレクセイの顔が、ぼんやりと暗がりに浮かんでいた。

「ならば、私が行くしかないだろう」

薄暗い室内に、冷酷な声が響く。

これで逢えるのは最後。

そう言っていたカインの優しい顔はすっかり消えていた。だが僅かにまだカインの気配が残っている。酷く弱々しく、今にも消えてしまいそうではあるが……。


起き上がって2人の様子を見ていると、魔王となった彼はアレクセイの横をスッと横切り、部屋の扉に手を翳した。

すると音も立てずに、扉がほの暗い廊下への道を開けた。

「お待ちください。貴方が出るまででも……」

アレクセイが歩み寄ると、魔王は振り返らず、笑みを浮かべたまま両手を肩上まで持ち上げた。

「闇より出ても、我が力は失われない。礼を言うぞ、リディアーナ」

その声を聞き、リディルはベッドから飛び降りた。

「待って!」

駆け寄り、魔王の背中に飛びつく。

「行っては駄目! 貴方を戦わせるために傍にいたんじゃないの! ここにいて! 行かないで!」

黒いローブにしがみ付き、声高に訴えるリディルのぬくもりを背に感じ、魔王は表情を和らげた。

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