Faylay~しあわせの魔法
「皇女殿下……お聞きいたしますが、あの方の力は、すでに完全なのですか」

アレクセイの問いに、リディルはただ肩を震わせた。

「……そうですか」

アレクセイは静かに息を吐き出すと、魔王の後を追って歩き出した。

「待って、どこに行くんですか?」

「先回りして、あの方よりも早くフェイレイ=グリフィノーと接触します」

それは彼らとともに魔王と戦おうとする意思のようにも受け取れた。

だが……。

「……何をするの?」

静謐な空気を湛えるアレクセイに、何かただならぬ覚悟を感じ取ったリディルは、恐る恐る聞いてみた。

アレクセイはしばし黙考した後、ゆっくりと振り返った。

「貴女にも懺悔しなければいけませんね」

と、首にかかった鎖を外す。その先につけられたふたつのシルバーリングが、カチカチと高い音を立てた。

「これに見覚えはありますか」

球体の中で屈むリディルに見えるよう、高く掲げる。

「貴女にとっての育ての親……本来ならば、私は貴女からも裁きを受けなくてはならないのですが……」

アレクセイの言葉を聞きながら、目を細めてそれを見ていたリディルは、黒く汚れて本来の輝きを失ってしまったその指輪が誰のものであるのか気づき、瞠目した。

「裁きは、彼から受けます」

リディルは身体が小刻みに震えるのを感じながら、アレクセイを見た。

真っ直ぐにリディルを見つめ、決して逸らそうとはしない彼の視線がすべてを物語っていた。

これは嘘でも夢でもなく。

現実に起こった、本当のことであると。

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