Faylay~しあわせの魔法
その冷たい雨が、ぴちゃりとアレクセイの頬を横から打った。

──熱い。

冷え切った夜闇、そこに降る雨もまた冷たい。なのに。

そう不思議に思ったのはほんの一瞬だった。

ゾクリと背筋に悪寒を感じ、アレクセイは身体を動かさずに腕だけを後方へやり、迫り来ていた重い剣を受け止めた。

剣の刃と刃がぶつかり、一瞬の間を置いて、膨れ上がる津波のように気が波状に広がった。

それだけで周りを取り囲む回廊が地面ごと吹き飛び、更にその向こうの建物を粉砕した。

「父さんと母さんが……そんなことをするか」

後ろから聞こえてくる声に、更に背筋が凍る。

見えなかった。

彼の動きが、気配が、まったく感じられなかった。

「これほどとは……」

アレクセイの首筋を、冷たい汗が伝っていく。

かろうじて抑えているということを感じさせないよう、アレクセイは肩越しに振り返り、微笑んだ。

「信じたくないお気持ちは分かります。しかし、窮地に追い込まれると人は本性を現すものです」

無理に剣を下へ払い、距離を取る。

「戦士としては最低の人間だ。その息子である貴方も、同じように命乞いしますか?」

フェイレイは歯噛みしてアレクセイへと突っ込んでいった。

電光石火の動きにアレクセイはどうにか対応する。

まだまだこれからだ。彼の力は恐らく、こんなものではない。

もっと、もっと引き出してやらなければ。

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