Faylay~しあわせの魔法
空から降り続く雨が止まって見えるようなスピードの中、ギン、ガキィンと、剣が交わり、暗い庭園に火花を散らす。

「そういえば、先程皇女殿下にもその指輪をお見せしたのですよ」

「!!」

フェイレイが目を見開いた瞬間に、アレクセイは長いリーチを生かし、フェイレイの届かない位置から切っ先を喉元へ滑り込ませた。

それを下からたたき上げ、がら空きになったところを身体を回転させながら懐に突っ込み、胴を真っ二つにする勢いで剣を振るう。

その前にアレクセイは半歩身を引き、頭上から剣を振り落とした。

それを芝生の上に靴裏を滑らせながら避け、アレクセイの背後へ回る。

「泣いておられました、殿下は」

フェイレイは濡れた芝生に片手をつき、足払いをかける。アレクセイはそれを見事に避け、後退した。

「おかわいそうに。中途半端に護りの誓いを立てられ、絶望だけを残して逝かれた。貴方の両親の罪は重い」

「……そうさせたのは!」

「私ですよ」

笑顔を見せるアレクセイに、フェイレイは剣を振りかぶった。

正面から突っ込んでくる、策も何もない剣。

それでも重かった。

剣の軌跡を見切って横に流しても、アレクセイの手には痺れが残る。

「甘いのですよ。護りきれないものを背負い込んで、結局は傷つける」

「それでも精一杯やった者を侮辱するな!」

「だから甘いというのだ!」

怒鳴りつけながら、アレクセイは長剣を振り回した。風を切り飛んでいく真空の刃が、いくつもフェイレイの肌をかすめ、切り刻んでいく。


< 628 / 798 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop