Faylay~しあわせの魔法
「戦いは結果がすべてだ。敗者に正義を語る資格などない!」

脹脛や大腿を斬られ、片膝をついたフェイレイを見下ろし、アレクセイは一息つく。

「私は魔王の、そして精霊の力をも取り込んでみせる。そして勝者となり、私が正しい者だと知らしめてさしあげましょう。その祝いの席には、是非貴方にもいてもらいたいものだ」

もっと、強くなれ。

アレクセイはそう願いを込め、命を懸けて言葉を紡いだ。

「そのときにもうひとつ、礼の品を差し上げますよ。……翡翠の石のはめ込まれた、銀の指輪をね」


どくり、と。

フェイレイは自分の中で何かが蠢くのを感じた。

首から下げられている鎖の先にあるシルバーリング。その片割れを持つ少女の柔らかな笑顔が脳裏を過ぎり。

心の奥底に眠る凶器にも似た殺意とともに、血に眠る莫大な力が噴き出した。それはフェイレイの自我を丸々呑み込んで、一気に膨れ上がる。


憎悪に満ちた黒い気が、フェイレイの赤い髪をゆらゆらと揺らしながら辺りに広がっていくのを見て、アレクセイは無意識に後退した。

ある程度覚悟はしていた。

神の領域に踏み込む力を、人間がそう易々と操れるはずがない。それをこんな風に無理やり、急激に爆発させたら、操縦者の精神を破壊しかねないと分かっていた。

しかし、それでもアレクセイは彼に賭けた。

どんな形であろうと、魔王からカインを救ってくれるだろうと。


アレクセイほどの剣士の手が震える。それほどフェイレイから噴き出す気は凄まじかった。

優しさを失くした深海色の瞳は、アレクセイを捉えると迷いなく剣を振るう。

飛び出した衝撃波は、皇城の西側をその一撃で吹き飛ばした。

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