Faylay~しあわせの魔法
膨れ上がった巨大な気は、離れたところにいるリディルのもとへも届く。

「フェイ……!」

魔王の力に護られた球体の中にいながらもなお届く、フェイレイの爆発的に大きくなった力。

そして、身震いするほど冷たい気。

「こんなの……フェイじゃない……」

頬に残る涙の筋を手の甲でぐい、と拭い、黒い球体を力いっぱい叩く。

拳が球体にぶつかるたびに飛び散る鮮血。走る激痛。

それに構うことなく、リディルは球体を破ろうと拳をぶつけ続けた。

「駄目……フェイ、自分を見失わないで……!」



奥の宮をゆっくりと歩いていた魔王は、ふと足を止め、窓から見える西の城が崩れていく様を見た。

「……ヤツか」

更に力が膨れ上がっていくのを感じ、魔王は唇の端を上げた。

「今度こそ私が倒す」

そう言い、そこから姿を消した。




フェイレイの放った衝撃波は、庭園の土を抉り、残っていた兵士たちも見事に吹き飛ばした。

噴水付近に倒れていたローズマリーも、その手前に転がっていたヴァンガードも、同じように吹き飛ばされた。2人とも動く気配はない。

フェイレイはそんな2人を気遣うことも忘れていた。

ただ愛しい者の命を狙う黒衣の騎士だけを捉え、真っ直ぐに、純粋なる殺意を向けた。

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