Faylay~しあわせの魔法
冷たくなった深海色の瞳に、微かに光が灯る。だが完全には己を取り戻すことは出来なかった。

両親を殺された恨みと、愛しい人を奪われるかもしれない恐怖が入り混じり、堅い鎖となって心を縛りつけてしまった。

『君の大事なものを思い出して。君が護りたいものを。ただ、怒りに流されてはいけない』

轟音の鳴り響く庭園の中、静かに語りかけてくるランスロットの声を耳にしてはいるのだが、理解することはなかった。


今にも倒れそうなくらいにボロボロになったアレクセイは、精神力のみで立っているように見えた。

このまま放っておいても、もう彼に戦うことは出来ないだろう。

そんな彼に振られた一切手加減なしの電光石火の剣は、左の肩口から右の腹まで一気に斬り裂いた。

すでに決着はついた。

けれど、こんなものではまだ足りない。

もっと痛めつけて殺してやらないといけない。

そんな妄執に捕らわれ、幽鬼のごとく精気のない瞳で更にアレクセイに斬りかかる。

フェイレイをそんな風に変えてしまったのは自分だと、アレクセイはその剣を甘んじて受け入れた。

それだけの罪を犯した。

五体を切り刻まれ、地獄のような苦しみを、そして死への恐怖を与えられることこそ本望だ。


アレクセイの身体から噴水のように噴き出した鮮血は、まるで生き物のように宙へ舞った。

冷たい雨と一緒に降り注ぐ、温かな命の水を全身で受けながらも、フェイレイの表情は氷のように冷たいままだ。

< 632 / 798 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop