Faylay~しあわせの魔法
『フェイレイ、力に囚われるな!』

ランスロットは叫ぶ。

『君の力は、君自身の心で動かすんだ! そうでなければっ……彼女は! リディルは!』

血溜まりの中に倒れ、すでに動かなくなったアレクセイの胸倉を掴み、馬乗りになって更に剣を突き刺そうとしていたフェイレイは、ピタリと動きを止めた。

「……リディル」

その名だけが、フェイレイを僅かに現へ戻す。

そうだ、こんなことをしている場合ではない。

リディルを攫った張本人を倒さなければ。

そして愛しい人を取り戻さなければ。


アレクセイから手を離し、ゆらりと蜃気楼のようにゆらめく、不思議な動きで歩き出す。

左手に握った剣の先を柔らかい土の上に引き摺りながら歩いていく様は、とても正気とは思えない。

怒りによって引き出された莫大な力は、どす黒い感情ごとフェイレイを呑みこんでいた。

ただひとつ、リディルだけが暗黒の世界に差す一条の光。

その光を求めて、フェイレイは奥の宮へ続く壊れた回廊を渡っていった。




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