Faylay~しあわせの魔法
「フェイ……!」

大きな波動が小さな漣を残し、徐々に消えていく。

それを感じて、リディルは更に強く黒い球体を叩いた。

「駄目、もう戦わないで」

痛みのあまり、振り上げる腕の動きが鈍る。それでもなんとかここから出ようと叩き続けた。

フェイレイは庭園から去った。

そして奥の宮へ続く回廊へと入る。

魔王もそこに向かった。

魔王と勇者。

因縁の2人が出会う。

「もう、誰も傷つかないでっ……」

ダン、と叩き付ける拳から、ゆらりと白い気が立ち上がる。

それはみるみるリディルの身体を包み込み、そして一気に放射状に広がった。

パリン、と硝子の割れる音がして、球体がバラバラに砕け散る。

宙から放り出され、リディルの身体は思い切り床に叩きつけられた。

身体中に痛みが走り、一番激しい痛みを持つ両の拳をつけた腕は、ダラリと床に投げ出されたまま動かなくなる。

それでも何とか立ち上がろうとすると、また白い気がふわふわと立ち上がった。

身体を取り巻く白い気は、血の滲む拳をやんわりと包み込み、すうっと痛みを攫っていく。

それは癒しの力を持つフォレイスの力ではない。リディル自身に備わった、万物の力のうちのひとつ。

「……力が」

戻った。

そのことに気づき、リディルは顔を上げ、立ち上がった。

「フェイ、お願い、もう戦わないで。そのまま戦ったら、フェイがフェイでなくなってしまう」

薄暗く長い廊下を駆け、フェイレイと魔王のもとへ向かう。

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