Faylay~しあわせの魔法
ざああと降り続く冷たい雨の中に、小さな咳が響く。
「ごほっ……はあ、はあ……」
捲れ上がった芝生の上に転がっていたローズマリーが、よろけながら起き上がる。
鈍い痛みを持つ胸に手をやるが、そこに“傷はなかった”。
痛みに顔を顰めながら、アレクセイの倒れている場所まで、足を引き摺りながら歩いていく。
そして切り刻まれ、血塗れになった彼を見て顔を歪めた。
「……この、馬鹿!」
傍らに崩れ落ち、彼の左手を取る。
すっぱりと切れた掌の傷は、彼自身がつけたものだ。
あのとき、ローズマリーを貫いたと見せかけたアレクセイの剣は、実際には彼女の身体の脇と腕の間に差し込まれただけだった。
暗闇と強い雨という視界の悪さ、そして傍に誰もいないことを利用し、ローズマリーを刺したと錯覚させ、拳を鳩尾に叩き込んだ。
そして剣を引き抜いたと見せかけるのと同時に自分の掌を傷つけ、流れた血をわざとフェイレイへと飛ばした。
フェイレイの頬に飛んだ血は、アレクセイの血。
ローズマリーは気を失っただけで、傷ついてはいなかった。
「こんなことまでして、何を護るって言うんだよ……」
ばしゃん、と泥水に拳を叩き付ける。
「あの子は精神を壊した! あれだけの力をこんな形で引き出して……どうなるかくらい、お前には分かってただろうがよっ! 大事にしてやらなきゃいけなかった! 時間をかけて、ゆっくりとっ……育ててやらなきゃ……!」
アレクセイの手を握り締め、怒鳴りつける。
「責任取れよ! お前、こんなとこで寝てんじゃねぇよっ!」
「ごほっ……はあ、はあ……」
捲れ上がった芝生の上に転がっていたローズマリーが、よろけながら起き上がる。
鈍い痛みを持つ胸に手をやるが、そこに“傷はなかった”。
痛みに顔を顰めながら、アレクセイの倒れている場所まで、足を引き摺りながら歩いていく。
そして切り刻まれ、血塗れになった彼を見て顔を歪めた。
「……この、馬鹿!」
傍らに崩れ落ち、彼の左手を取る。
すっぱりと切れた掌の傷は、彼自身がつけたものだ。
あのとき、ローズマリーを貫いたと見せかけたアレクセイの剣は、実際には彼女の身体の脇と腕の間に差し込まれただけだった。
暗闇と強い雨という視界の悪さ、そして傍に誰もいないことを利用し、ローズマリーを刺したと錯覚させ、拳を鳩尾に叩き込んだ。
そして剣を引き抜いたと見せかけるのと同時に自分の掌を傷つけ、流れた血をわざとフェイレイへと飛ばした。
フェイレイの頬に飛んだ血は、アレクセイの血。
ローズマリーは気を失っただけで、傷ついてはいなかった。
「こんなことまでして、何を護るって言うんだよ……」
ばしゃん、と泥水に拳を叩き付ける。
「あの子は精神を壊した! あれだけの力をこんな形で引き出して……どうなるかくらい、お前には分かってただろうがよっ! 大事にしてやらなきゃいけなかった! 時間をかけて、ゆっくりとっ……育ててやらなきゃ……!」
アレクセイの手を握り締め、怒鳴りつける。
「責任取れよ! お前、こんなとこで寝てんじゃねぇよっ!」