Faylay~しあわせの魔法
ローズマリーの声に、握り締めた手から微かに反応が返った。

「……アレクセイ!」

冷たい雨と温かい血の流れる顔を覗き込むと、微かに唇が開いた。ひゅう、ひゅう、と高い風のような音が漏れる。

「何?」

ローズマリーが耳を近づけると、微かに言葉が聞こえた。

「皇女、殿下のもとへ……彼、を……殿下が、彼を、救って、くれる……」

「……お前」

殴りたい衝動に駆られたが、引き裂かれた身体を前にしてはそれも出来ず、代わりに左手を握り締めた。

「馬鹿! あの子たちは確かに強い絆で結ばれている。だけどあの子たちは機械じゃない、人間なんだ! お前の思惑通りに動く人形でも、機械でもない! リディルに会えたとして、もとのフェイレイくんに戻るかどうかっ……」

「それでも、そこに、希望を……見ていた」

ひゅう、と風が鳴く。

「皇女殿下が彼を救い、その彼が、カイン様を救い……お前が、しあわせになれる、未来を……」

皇家を命懸けで護るのも。

カインを救いたいと思うのも。

すべてはローズマリーのために。

生まれた時から見守ってきた、愛しい幼馴染のために。

「……馬鹿野郎」

ローズマリーの赤い瞳から涙が溢れ、黄泉の国へと旅立とうとしているアレクセイの冷え切った頬に、ひとつのぬくもりを与えた。

「自分のしあわせは、自分で掴む。だからお前も、我侭に生きろ……人のためじゃなく、自分の想いのままに、生きろよ……」

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