Faylay~しあわせの魔法
魔王は手を翳し、そこに太くて長い、黒光りする剣を出現させる。フェイレイの剣はそれに弾かれた。

それでもフェイレイは更に斬り込む。

どす黒い感情を纏ったまま、ただ殺してやりたいという想いを叩き付けた。

それを魔王は冷静に受け止める。

スッと目を細め、憐れむようにフェイレイを見ると、剣を繰り出してきたフェイレイを思い切り吹き飛ばした。

床にたたきつけられた後、何メートルも滑るように転がっていった身体は、その途中で跳ね上がるように飛び起きた。

ザッと床に足をつけると、更に魔王に向かっていく。

その瞳に殺意以外はない。

魔王が斬撃を繰り出しても避けることなく、すべて身体で受け止める。自分を護るという概念すらないのだ。

血を噴き出しながら、ただ目の前の敵を倒すことだけに集中し、突撃する。


「待って!」


そこに、高い声が響く。

魔王の後ろの扉から息を切らせて駆け込んでくるのは、翡翠の瞳の少女。

「フェイ、アルトゥルス、剣を退いて! 戦ってはいけない!」

今にも振り下ろされようとしているフェイレイの剣の前に出て、魔王を庇うように両手を広げる。

「リディルっ……」

暗黒の世界にいるフェイレイにも、彼女の姿だけははっきりと認識出来た。

はっとして振り下ろそうとしていた剣を、リディルの頭上でピタリと止める。

それでもその斬撃はリディルの額を斬り、そこからつっと一筋の鮮血が流れ出した。

< 642 / 798 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop