Faylay~しあわせの魔法
その清らかな流れに、フェイレイの瞳に動揺が現れた。

剣をリディルの頭上で止めたまま、カタカタと手が震えだす。

一歩間違えば頭を真っ二つに割られるところだったというのに、リディルは瞬きひとつせずにフェイレイを見つめ、語りかけた。

「フェイ……戻ってきて。大丈夫、フェイなら、そんな力に負けないから……」

身体を硬直させたまま動かなくなったフェイレイにゆっくりと近づいていき、剣を握りしめる手を、そっと両手で包み込んだ。

心を失ったせいなのか、フェイレイの手は氷のように冷たくなってしまっている。

小刻みに震えるその手をぎゅっと握りしめ、リディルはフェイレイを見つめた。

「フェイ」

リディルの声に、フェイレイの瞳が揺れ、ガチガチに固まった首を動かし、彼女へ視線をやった。

「リディル……」

穏やかな色を湛える翡翠色の瞳を見ているうちに、フェイレイの呼吸が乱れてきた。

するりと剣が手から離れ、ガラァン、と大きな音をたてて床の上に落ちる。

その上にカン、と小さな音を立てて、鎖に繋がれたままの指輪がふたつ、転げ落ちた。

それを拾い上げたリディルは、零れ落ちそうになった涙を瞼の奥に閉じ込め、両手で握り締めて祈りを捧げてから、フェイレイの掌を開かせ、そこに乗せて自分の手を重ねた。

リディルの手のぬくもりと一緒に、両親の想いがなだれ込んでくるようだった。

自分たちを護るために最期まで戦った、勇敢な戦士たち。

その優しい想いと、どす黒い負の感情がせめぎ合い、フェイレイを大きな濁流の中に呑み込んでいく。

「フェイ……」

大きく肩で息をしながら床に崩れるフェイレイと一緒にリディルも床に座り、心配そうに彼の顔を覗き込んだ。

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