Faylay~しあわせの魔法
「あ……貴方は、右利きじゃなかったんですか?」

左手で見事にドラゴンを伸してしまったフェイレイに、驚きの声を上げるヴァンガード。

「もとは左利き。パワーがありすぎて周りを巻き込むから、右を使えって指導員に言われたんだ。こんな坑道の中で本気でいったら、天井崩れてくるし」

「そこまで考えて」

普段の彼は何も考えていないように見えるのに。ドラゴンを相手にして、周りを気遣う余裕があったというのか……。

「……すみません僕、貴方のこと……」

誤解していた、と言おうとしたとき、今まで普通に歩いていたフェイレイが、急にペタリと座り込んでしまった。

「フェイレイさん!?」

「あ、いや、ごめん、ちょっと気ぃ抜いた」

グッと歯を食いしばると、フェイレイはまた何でもないように歩き出す。

背負われて、歩く振動を感じているために気付かなかったが。フェイレイの肩は、激しく上下していた。吐く息は荒く、額に光る汗がいくつも頬を伝い落ちていった。

「フェイレイさん……」

「いや、大丈夫だから」

心配そうな声を出すヴァンガードに、フェイレイは軽く言う。

「リディルのことも、ヴァンのことも、ちゃんとここから出してやるから。約束、したもんな?」

ニッと笑う横顔が後ろから見えて、ヴァンガードは唇を噛んだ。
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