Faylay~しあわせの魔法
それはいつものフェイレイだった。

自分の力を信じ、支えてくれる周りの人たちを信じ、そして護ろうとする。どこまでも真っ直ぐに進んでいく、一点の曇りもない青空のように澄んだ瞳だ。

「うん」

ずっと安らぎとしあわせを与えてくれた、優しくて力強いフェイレイが戻ってきた。

「もう……大丈夫、だね」

そっと瞳を伏せると、ランスロットと戦う決意をしたフェイレイに背を向け、そして腕を振り上げた。

リディルの目の前に広がった白く光る障壁は、今が最大の好機と踏んでフェイレイに挑もうとしていた魔王の足を止めた。

「リディアーナ……」

「駄目だよ、アルトゥルス。邪魔しないで」

「『勇者』の血は絶たねばならん。呪われし穢れた血だ!」

リディルは首を横に振る。

「フェイは自分で乗り越える。血の縛りなんか、彼には関係ない。だから……戦う理由なんか、ないんだよ。もう戦わないで……」

「駄目だ。『勇者』も人も、赦しはしない」

「……どうしても?」

リディルの表情は哀しみに満ちていた。

それを見ながら、魔王は頷いた。

「赦さぬ。この世界に在るものすべて、滅ぼすまでは」

魔王の答えに、リディルは瞳を閉じた。何かの痛みを堪えるように右腕を抱え、そして顔を上げた。

「……分かった」

< 659 / 798 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop