Faylay~しあわせの魔法
ずっとランスロットを殴り続けていたのは、恐らく彼の父親だった。

誰よりも優れた力は、人々を恐怖に陥れるほど強大な力で、それをコントロール出来ずに誤って人を殺めてしまったとき、彼の父親は自分の息子に恐怖したのかもしれない。

「復讐してやるんだ。私を蔑み、妬み、闇の底へ追いやったヤツラを、破滅へと導いてやるんだよ」

あの白黒の映像には、父親が激昂している姿がずっと映っていた。

その後ろに……微かにもうひとり映っていた。

フェイレイはそのもうひとりの姿を、細い記憶の糸で手繰り寄せる。

女性だった。

長い髪をひとつに束ね、両耳を手で押さえつけ、泣きながら部屋の隅に蹲って震えていた人。

「魔王も精霊も押さえ込んで、私が正しかったんだと証明してみせるんだ!」

ランスロットの力がフェイレイの身体の末梢神経までを侵食していく。

痛みというより、身体の中を蟲でも這い回っているような、どうしようもなく不快な感触が襲い掛かってくる。

けれどもフェイレイはそれに耐えた。

そして、ランスロットの腕を掴む。

「ランスロット……じゃあ、俺も証明してやるよ」

ぐっと力を込め、ランスロットの腕を一気に引き抜く。青い目が僅かに見開かれた。

「あんたの復讐心より、俺のリディルを護りたい気持ちの方が強いんだってことを!」

フェイレイの身体から眩い光が迸り、ランスロットは腕を翳して後退した。

自分の力が跳ね返され、ランスロットは信じられない思いでフェイレイを見た。

「力が跳ね返される……こんなことが……」

「俺の方が強かっただろ?」

フェイレイは深海色の瞳を、真っ直ぐにランスロットへ向けた。

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