Faylay~しあわせの魔法
「何故……」

「リディルが信じてくれた。だから俺は、それに応える」

揺ぎ無い瞳で、フェイレイは言う。

「信じることが、力になる。ティターニアがあんたを信じたのはきっと、あんたに力をあげたかったんだ。哀しみを乗り越えて、笑顔を取り戻す力を」

「……知ったようなことを」

ランスロットは吐き捨てるように言った後、せせら笑った。

「そんなことで力が与えられるなら、今頃私は世界を手に入れている」

「……あんたは本当に、世界を手に入れたかったのか?」

思いがけない質問に、ランスロットはサッと笑みを消した。

「どういう意味だい?」

「そのままの意味だ。あんたは本当に、世界を手に入れたかったのか?」

フェイレイの質問に、ランスロットは僅かに戸惑うように瞳を揺らした。

「そうだよ。魔王も、精霊王も、ティターニアも排除して、私を苦しめたすべての人々を地獄に堕としてやるんだ」

「じゃあ、あの人を殺さなかったのは、何でだ?」

明らかにランスロットの顔色が変わった。

「……誰のことだい?」

逸らされた視線に、真実が見える。フェイレイは確信を持った。

「あんた、あのとき……自分の母さんは殺さなかっただろう?」

部屋の墨に蹲って泣いていた女性は。

ランスロットの母親だった。

息子が虐待されていることに耳を塞ぎ、目を閉じ、ただ震えていた女性。

ランスロットが父親を真っ二つに斬り裂いて殺してしまった日。逃げ際に母親の姿がチラリと視界に飛び込んでいた。

震えながらランスロットを見つめていた母親。

何もしてくれなかった彼女を、ランスロットは憎んでいたはずなのに。

彼は何もせずに家を飛び出していった。動揺して震えながら、転げるように山道を駆け抜けていった。

< 671 / 798 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop