Faylay~しあわせの魔法
「あんた本当は、父さんを殺すつもりなんかなかったんだ。なのにあんなことになってしまって、だから崖から飛び降りて死のうとしたんだ」

「それは君を騙すためのものだ」

「でも、嘘じゃない」

深海色の瞳は、ランスロットの心を射抜くように見つめる。

「あんたは俺を騙そうとはしていたけど……でも、その中に本当のこともたくさんあった」

彼が話したことで嘘だったのは、魔王がティターニアを攫い、世界を壊そうとしたということだけだ。

他のことはすべて真実。

人には過ぎる力を持って生まれ、人々から疎まれて育ったこと。

父親からは虐待され、母親には救いの手を差し伸べてもらえなかったこと、周りの人々からも蔑まされていたこと。

父親を殺してしまったことがきっかけで彼の中に闇が生まれてしまい、世界を破壊しようとする衝動を引き起こしてしまったことは、容易に想像出来る。

けれどもアライエルで笑顔に囲まれ、それに笑顔で応えていたことも……決して、嘘ではない。

命を救い、彼を見守ってくれていたティターニアを、心の奥底でずっと大事に想っていたことも。すべて、本当のことだと感じる。

「あんた本当は、優しい人なんだ」

射抜かれた青い瞳は、不快に歪められた。

「力が強すぎて心が喰われてしまう。……あんたもそうだったんじゃないのか? ほんの少しの弱さが精神を乱す。それだけ大きな力なんだ」

フェイレイは自分の掌を眺めた後、それをギュッと握り締めた。

「俺も弱さを見せればさっきみたいに喰われるんだろう。でももう喰われたりしない。あんたを完全に抑えてみせる」

「……そんなこと、私が赦すとでも?」

「赦されなくてもやってみせる。俺、決めたんだ」

フェイレイは微笑む。
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