Faylay~しあわせの魔法
生き物のように蠢く繭の中を押したり押されたりしながら進み、やっとリディルの腕を掴む。

「リディル、しっかりしろ!」

力ずくで引き寄せて腕に抱えると、微かにリディルの瞼が震えた。

「ごめんね……私じゃ、アルトゥルスを抑えきれなかった……」

白い光に護られてはいるものの、それは今すぐにでも黒い繭に呑み込まれてしまいそうなほど弱々しい光だ。

だからなのか、フェイレイが少しでも気を緩めると、リディルの身体は繭の黒い糸に絡め取られてみるみる沈んでいく。

それはリディルを放すまいとする魔王の意志のようでもあった。

それを何とか引っ張りあげながら、迫り来る糸を何度も払いのける。

「これは魔王の力なのか? ……こんな、力……」

何もかも絶望という闇の中へ呑み込んでしまう、あまりにも巨大な力。

カインの中に入っていたときよりも何倍にも膨れ上がった魔王の力は、人の形を成して暴れまわり、戦艦を叩き落そうとしていた。

それをリディルが止めると、今度は背中から黒い触手のようなものを伸ばし、暗雲の下を這うように四方へ広げて中央大陸の空を掌握し、更に星全体へと力を伸ばそうとした。

辛うじてリディルがそれを抑えてはいるが、それも限界に近い。

「フェイ、力を貸して……」

「もちろん」

フェイレイは強くリディルの肩を抱き、頷く。

「精霊たちが、来た、から……」

暴風吹き荒れる皇都の街を、小さな精霊たちが必死になって飛んでいた。

彼女たちが愛する『人』を、護るために。

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