Faylay~しあわせの魔法
「フェイが精霊たちに慕われていたのは、『勇者』だからじゃ、ないんだよ……『フェイ』だから、みんな、大好きなの……」

ガラガラと崩れていく皇城に集まってきた小さな光たちは、魔族たちの攻撃を受けてフラフラになり、力果てる者もいた。

魔王の力に弾け飛ぶ者もいた。

それでも彼女たちは一心不乱にフェイレイとリディルを目指す。

互いの手を取り合って、力を合わせて黒い繭を突き破る。

ぽう、と闇の中を照らす小さな光たちに、フェイレイは顔を上げた。僅かだが高波のようにうねる繭の動きが鈍る。

《今こそお前の力が必要だ》

火の精霊ティナが、燃え盛るドレスを翻し、目の前にふわりと舞い降りる。

《私たちも力を貸すよ》

海の精霊ファリガたちも、フェイレイの顔にペタペタと貼り付く。

《この繭を破り、喚ぶんだ》

風の精霊グィーネたちはリディルを呑み込もうとする糸を薙ぎ払い、土の精霊ウィルダスたちが手を繋いで束となり、押し寄せてくる糸を防ぐ。

《さあ、剣を持て》

鋼の精霊スティルたちはフェイレイの剣に力を与える。

フェイレイは頷き、自分の身体も糸に拘束されながら剣を振るう。

ブチブチと音を立てて繭は千切れていくが、驚異的なスピードで再生し、また囲まれる。

「駄目だ……一気に吹き飛ばさないと……」

だが糸に邪魔をされ、思うように力を入れられない体勢ではそれも難しい。

精霊たちも人から魔力を注ぎ込まれなければ、大きな力を発揮することは出来ない。なんとかリディルを護ろうとはするものの、力尽きて次々に姿を消していく。

「みんな……」

光の粒となって消えていく小さな命たち。

人を滅ぼそうとしている魔王の力を抑えているリディルは、彼女たちを救ってやれない悔しさに涙を滲ませた。

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