Faylay~しあわせの魔法
ブチブチと白い糸を引き千切り、黒い手は城の壁ごとフェイレイたちを薙ぎ払おうとした。

剣を振り落として衝撃波を浴びせてもビクともせず、精霊たちが束になって飛び掛ってもその力を殺ぐことは出来なかった。

激しい衝撃が身体中を駆け巡る。

それでもリディルを護ろうと彼女を抱きしめ、フェイレイは背中から床に叩きつけられた。

「フェイっ……」

もう癒しの力を発動することも出来ないリディルは、ただ彼にしがみ付く。

「っ……へい、き……」

息を詰まらせながらも、フェイレイは何とか起き上がる。

しかしどうすればいいのか。

逃げることも赦されない、かと言って力の差がありすぎてまったく勝機は見えない。

いかに『勇者』の血を持つとはいえ、フェイレイはただの人間だ。天にも届く高さになった魔王の力に、敵うとは到底思えなかった。

それでも。

小さな精霊たちは消えることを覚悟して、魔王の黒い力に向かっていく。

更に攻撃を繰り出そうとする魔王を、リディルが床に蹲りながら歯を食いしばって止めている。

兵士たちは怯えながらも魔族と戦い、懸命に負傷者を助けようとしている。

そして無力だと思われた人々からは、光の祈りが送り続けられている。

誰も諦めてなんかいない。

諦めていないのだ。

「ランスロット、力を貸してくれ!」

本当は『勇者』などではない。

アライエルの騎士たちを騙し、世界を滅ぼそうとした悪魔で、フェイレイの中に流れる血も呪われし穢れた血である。

それでも決めたのだ。

ランスロットに信じる心の強さを見せてやると。その先にある光を掴ませてやると。

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