Faylay~しあわせの魔法
《リディアーナの涙に気づいたのは魔王、そしてお前だけだ。しかし魔王は世界を滅びへと誘う存在。──我らはお前に賭けた》

見えてきた黒檀に染まるそれは、良く見れば岩ではなかった。

大きな……大木のようなものだ。顔を動かさなければ端が見えないほど太い。

視線をゆっくりと上げていくと、その途中に、人の顔のようなものが掘り込まれていた。──いや、掘り込まれているというよりは……埋め込まれているように、顔の形が盛り上がっている。

それを眺めていると、その人の顔の瞳がぎょろりとこちらを睨んだ。

「うわっ」

思わず声を上げて仰け反る。

良く見れば顔はあちこちにたくさん散らばっていた。老若男女、色々な顔があり、それぞれがフェイレイをジッと見下ろしている。



──危険な賭けだった

──お前の血に宿りし力は、人には過ぎる



黒檀に染まる顔が、口を開かずに言葉を発する。

《だが、お前は乗り越えた》

どっしりとした重みのある声の主を追って、視線を上げる。

大木の先にあったのは、老齢の翁の顔だった。

白く長い髪と髭をずっと下まで伸ばし、黒檀の木と絡めている。深い皺の刻まれた顔に、厳しさと優しさを湛えた翡翠色の瞳。

「あんた、は……」

大木の翁の周りに、ぽう、と光が灯る。

その光はフェイレイの回りをぐるりと取り囲み、ぱちりと弾けた。すると次々に精霊の女王たちが姿を現す。

火、水、土、風──今までフェイレイを助けてくれたすべての精霊の女王たちが、フェイレイを囲んで彼を見つめていた。

《行け》

翁の声とともに、ふわりと白い霧がたゆたい、再び視界が白くなっていく。

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