Faylay~しあわせの魔法
《光の中に生き、膨大な魔力を擁するお前は好ましかったが、まだ危険だった。だから我らが力を貸すわけにはいかなかった》

辺りを包む霧の向こうから、声が響く。

《しかし我らの力なしに己の才を極め、自らの手で光の道を掴んだお前とならば、共にゆける》

再び霧が晴れる。

ビリビリと身体に振動が伝わってきて、魔王の力を受け止めている最中なのだということに気づく。

《さあ、参ろう。この世界に、再び安寧をもたらすのだ》

フェイレイはグッと歯を食いしばる。

召喚などしたことがない。

いきなりそうしろと言われても、はっきり言って困る。けれど……。

言葉と言葉で自分たちの絆を作り、そして心と心で力を紡ぎだす……いつだったか、リディルがそう言っていたのを思い出し、目の前の巨大な黒い人型を睨み据えた。

「だったら、難しい言葉なんていらないよな!」

今まで生きてきた中で培った、自分の力を信じて剣を振り上げる。

「この剣に来たれ、精霊王っ!!」

ドン、と青白い光が天へ一直線に伸びた。

その光景はこの星の上のどこからでも見ることが出来た。

暗雲を突き破り、朝焼けを待つ菫色の空が僅かに顔を出す。

『精霊王……! 何故私の邪魔をするのだ!!』

フェイレイから真っ直ぐに伸びる光の柱は、魔王の力を具現化させた人型の闇を取り込みながら、どんどん大きくなる。

《魔王よ、再び眠るが良い。お前はもう……この世に在ってはならんのだ》

精霊王の声がどこからともなく響き、フェイレイに更なる圧力がかかる。そして身体の隅々から力が奪われていくのが分かった。

今まであるのかどうかすら分からなかった魔力が、自ら召喚した精霊王に容赦なく吸い上げられている。

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