Faylay~しあわせの魔法
「魔王!!」

フェイレイもリディルと一緒に手を伸ばした。

それに魔王は一瞬だけ驚いたような顔を見せる。

そして……哀しげに歪んでいた顔に微かな笑みを浮かべ、すうっと光に呑まれて消えていった。

途端に、光の洪水が急激に収束していく。

フェイレイとリディルの身体も、流れに運ばれて地面に転がされた。

ズササ、とボコボコした瓦礫の上を転がり、その痛みに顔を顰めながら空を見上げたフェイレイの頬に、ぽたりと雫が落ちる。

冷たい雨とは違う。

あたたかな……涙。

「……魔王」

助けられたかもしれない人を、助けられなかった。

フェイレイの胸に、激しい後悔の念が急激に広がっていく。



暗雲の取り払われた上空は菫色。

地平線の向こうから顔を出そうとしている太陽の光に真っ赤に染められた、まるで炎のような雲が広がっている。

何とも言えない想いでその空を眺めていたフェイレイは、ふとリディルへ目をやった。

彼女は瓦礫の上に手をついて、よろよろと立ち上がったところだった。

燃えるような朝焼けの下、微かに残る黒い気配を見つめた彼女は、両手で器を作り、空へ掲げた。

そこへ吸い込まれるように黒い気配が収束し、小さく揺らめく黒い玉が出来上がった。

それはふわふわと、頼りなげに揺らめきながら、ゆっくりとリディルの掌に納まる。

「……魔王?」

なんとなくそんな気がして訊ねてみる。リディルは小さく頷いた。

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