Faylay~しあわせの魔法
「リディル……駄目だ」

足を踏み出しても、その分だけリディルは逃げていく。

フェイレイはその場に留まり、手をゆっくりとリディルへ伸ばした。

けれど、リディルがその手を取ることはなかった。

「……アルトゥルスも、ここにいてはいけない。私も……いてはいけない。だから、この人と一緒に、行くよ」

どこへ。

そう訊ねる声は、喉の奥に引っかかって出てこなかった。

「さよなら、フェイ……大好き……大好き、だったよ……」

笑顔を見せようとして、でも出来なくて。翡翠の涙だけが滝のように零れ落ちていく。

それがリディルが伝えた、フェイレイへの最後のメッセージとなった。

「──っ、リディル!!」

フェイレイがリディルに向かって走り出したときには。

リディルの姿は登り始めた太陽の光に融けるように、ゆらめいて消えてしまっていた。

その残像を掴み、抱きしめて、瓦礫の上に突っ込む。

もくもくと土煙を上げる瓦礫の中、穴が開くほど両手を見つめ、何の感触もないことに顔を歪めた。

「リディル……!」

足音に振り返ると、ヴァンガードが瓦礫の山に足を取られながら駆け寄ってくるところだった。

「フェイレイさん! リディルさんはどこに!?」

朝日を背負って駆け寄ってくる彼を見つめた後、何も言わずに辺りに視線を走らせ、ヨロヨロと歩き始める。

「リディル……リディル!」

どんなに名を呼んでも、リディルは姿を現さなかった。

瓦礫の上を足を引き摺りながら歩き回り、彼女の消えた場所へ何度も立ち寄り、そしてまた歩き……。

けれどリディルは、どこにもいなかった。

この世界の、どこにもいなかった。

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