Faylay~しあわせの魔法
「真実は再び闇に葬られる……か」

雨上がりの湿気を含んだ風が窓から柔らかく入り込み、ローズマリーのピンクブロンドの髪を優しく揺らす。


10年前の自然災害は、皇位継承権を巡って起きたクーデターによる、人の悪意が魔族を刺激し、それに怯えた精霊が引き起こしたものである。

その戦闘により母を失ったリディアーナ皇女殿下が、自身の中に眠るティターニアの力を発動させ、それに呼応した魔王が目覚めてカインに取り憑いた。

そうやって魔王が世界を滅ぼそうとし、たくさんの人々の命を奪ったことは事実。

しかしその裏にある事情は、すべて隠された。

目覚めさせたのが皇女殿下であること、操られていたのはアレクセイではなく惑星王であること、そして、千年前の真実も──。

それを表に出すことは出来なかった。

皇家の威信を存続させる。それがアレクセイの願いでもあったから。

彼が命を賭けて護ったものを、ローズマリーも護りたいと思うのだ。


「貴方は卑怯だと言うかしら。真実を隠し、このまま世界に君臨し続けることは」

ローズマリーはそっと、目の前のベッドで眠るカインの頬を撫でる。

ここは皇都のギルド本部の医療施設である。

皇城は破壊しつくされてしまい、今は傭兵たちが命懸けで皇都民を護った、ギルド内に身を寄せている。

カインだけではない。

ギルドで護られた民たちは、ここを一時的な避難場所としていた。

戦闘が終わってからすぐは、綺麗な朝焼けが見れたりもしたのだが、すぐに天候は悪化。

暴風雨や地震などの自然災害は一ヶ月も続き、その間人々は外に出ることも出来なかった。

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