Faylay~しあわせの魔法
「おっし」

ブラッディはフェイレイの頭をわしわしと撫で、ニカッと笑った。

「もし海へ出たいときは言えよ。船の修理も終わったし、もういつでも出せるからな」

「ありがとう」

軽く手を振り、フェイレイは商人たちが集まりだしたという城の方へ向かう。

復興してきた街を確認するのも仕事のうちだ。何せ、街が破壊しつくされてしまったのは、フェイレイのせいでもあるのだから。



去っていくフェイレイの背中を見送り、ブラッディは軽く溜息をつく。

「三ヶ月か。忘れるには、まだ早いな……」

彼の脳裏にも、翡翠の少女の姿が浮かび上がる。彼女を失った傷は、まだまだ癒せそうにもない。

ブラッディでさえそうなのだから、フェイレイの傷は更に深いだろう。

それでもいつか、忘れる日が来るのだろうか。

「……来ねぇよな、アイツのことだから……」

何とかしてやりたいとは思う。けれど、リディルの所在は誰にも分からなかった。



皇都の中心街の、瓦礫を避けて更地となったところに市は出来ていた。

簡素なテントがずらりと並び、皇都民や軍の人間たちが隙間もないほど大勢集まっていた。

久々に見る活気付いた街並みを見るだけで、人々は嬉しいのだ。

笑顔と歓声の上がる市を歩き、フェイレイにも自然と笑みが零れた。

けれどその“自然の笑み”を零す自分に気づいて、さっと表情を強張らせた。

──笑えない。

“しあわせ”を感じてはいけない。

そう、自分を律した。

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