Faylay~しあわせの魔法
「悪ぃな。俺はこっちの方が性に合ってんだよ。カイン様ならようく、分かってくださると思うが……」

と、海賊船に親指を向ける。

「……そうでしょうね。いえ、私の独り言です。気になさらないでください」

「美人にそんな哀しい顔をされると、弱いんだがな……」

ブラッディは溜息をついた。

共に旅をしたフェイレイやヴァンガードを見送り、カインはいつ目覚めるとも分からない状態。

立場的に自分に傅く従者たちには弱いところを見せられない。

泣き言を言える相手が欲しい。彼女がそう思っていることは明白であったが、ブラッディはあえて突き放す。

「カイン様の支えにはあんたがなるんだ。あんたがこの星の王の伴侶なんだぜ? 強くなくちゃぁな」

「……ええ」

「大丈夫だ。カイン様はじきに目を覚ます。そしたら伝えてくれ。傍にはいてやれねぇが、俺はいつでもカイン様を見守ってるってな」

「ええ」

「何かあったらすぐに駆け付ける。だから安心しな、皇后様よ」

ニッと笑うブラッディに、ローズマリーも笑みを浮かべ、頷いた。

「ありがとう。必ず伝えますわ」

「おう、よろしく頼む。……じゃあな」

軽く手を上げて別れを告げ、タラップを歩きながら手を振るローズマリーを振り返る。

「……カイン様。あんな魅力的な女放ったらかしにしていつまでも寝てると、誰かに掻っ攫われっちまうぞ~」

白い雲の浮かぶ青空に向かって呟いた声が、カインへ届いたのかどうかは分からない。

< 715 / 798 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop