Faylay~しあわせの魔法
ローズマリーがカインの眠る病室に戻り、いつものように民からの贈り物を確認し、花束を花瓶へと生けていると。

「……ロー、ズ」

擦れた声が、微かに耳に届いた。

「……カイン!?」

ローズマリーは花束を放ってカインに駆け寄った。気のせいだったのかと思うくらい、カインは静かに眠っているように見える。

「カイン……?」

そっと呼びかけ見守っていると、ピクリと瞼が動いた。

「カイン!!」

ベッドに手をついて顔を覗き込むと、ゆっくりと瞼が開き、紫暗の瞳がローズマリーを捉えた。

「……ローズ……」

今にも消え入りそうな声だが、それでもはっきりとローズマリーの名を呼んだ。そして弱々しく微笑みかける。

ローズマリーの顔がたちまち崩れる。

「カイ、ン……うう、うわあああああっ……」

カインの胸の上に寄りかかり、泣き崩れるローズマリー。カインは力の入らない手を懸命に動かし、彼女の頭に手を乗せた。

穏やかな時間が、2人にも訪れようとしている……。




出航した海賊船の甲板で、フェイレイは青い海と空の境界線を眺めていた。

「リディル、待ってろよ……」

どれだけ時間がかかるか分からないけれど、きっと辿り着いてみせる。

そして今度こそ最後まで護り抜く。

この小指に光る、お揃いのシルバーリングに誓って。


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